もしもの恋となのにの恋
「・・・あの時、死んでいればよかったのに・・・」
そのどこからともなく聞こえてきた声と言葉に俺と千鶴は凍てついた。
一体、誰がそんなことを言った?
ふと、俺の目が夏喜をとらえた。
夏喜は不気味に笑んでいた・・・。
それを目の当たりにした俺は背筋に悪寒が走り、嫌な汗が全身から噴き出した。
嗚呼、まだ昼間だと言うのに目の前に恐ろしい幽鬼がいる・・・。
「千鶴なんて・・・千鶴なんて!!あの時、死んじゃえばよかったのに!!そうすれば私は!!私は秋人とっ!!」
「・・・例え、千鶴があの時、死んでいたとしても俺はお前を・・・夏喜を好きになったりはしなかった。・・・忍に誓って・・・」
俺の言葉に夏喜は不気味な笑みを掻き消し、鬼の形相へと変じていた。
それでも俺は怯まなかった。
ここで怯んではいけない・・・。
俺の本能がそう言う・・・。
「夏喜、俺はお前を騙した。それはお前が千鶴を裏切り、傷つけたからだ。俺はお前を許さない・・・。俺はあの日からずっとお前に復讐したかったんだ」
俺の言葉に夏喜は『そう・・・』と声を発し、力なく笑んだ。
嗚呼、本当に壊れた・・・。
俺は心の内で呟いた。
「・・・千鶴、ごめんね?」
夏喜の突然の謝罪に千鶴は明らかに戸惑っていた。
千鶴は胸の前に置いた手を何度も組み換え、何度も瞬いていた。
「・・・本当に・・・本当に今更だよね?・・・けれど、本当にごめんね。・・・千鶴は私にとって本当に・・・本当に唯一無二の親友だったよ。・・・なのに・・・なのに憎んで裏切って殺そうとしてごめんなさい。今まで本当に・・・ありがとう。・・・バイバイ、千鶴」
夏喜はそう言うといつものように笑んで千鶴に手を振った。
そこにはもうあの恐ろしい幽鬼の姿は姿はなかった。