もしもの恋となのにの恋
高嶺の花
清水千鶴は高嶺の花だ・・・。
高校時代、誰かがそんなことを言っていた。
それを俺は面白い言葉だと心の内で笑った。
そんなことを千鶴本人に言えばキョトンとした間抜けな面が拝めるだろうな・・・。
そんな意地の悪いことを思った覚えもある。
千鶴は自分が非凡であることに気付いていない。
俺は千鶴以上にできた人間を知らない。
千鶴は万能だ。
それ故に惹かれもするし、疎ましくも感じられる。
容姿端麗。才色兼備。
千鶴はそんな言葉が似合う女だ。
なのに・・・だ。
千鶴が選んだ男は二人とも平凡極まりない男たちだった。
そのうちの一人は中学二年の夏、海で亡くなった。
死因は溺死だった。
それは不慮の事故だった。
誰にも非はない不慮の事故・・・。
千鶴はそれでも自分を責めた。
俺はそれが堪らなく辛かった。
俺が代わりに死ねばよかった。
そう思うほどに俺は辛かった。
俺は千鶴のことが好きなんだ・・・。
その時、はじめてそうなんだと自覚した・・・。
他者を好きになると言うことはとても辛いことなんだと身を持って知った。
恋は甘酸っぱいモノ。
愛は辛いモノだと知った。
俺は千鶴を愛している。
なのに千鶴は俺など見てはいない。
そう、昔から・・・。
もしも、死んだのがそいつではなく俺だったなら千鶴は間違いなくそいつとくっつき、結婚しただろう。
そして、宮原さんになど目もくれず・・・。
宮原さんは確かにいい人でその容姿も悪くはない。
だが、千鶴と釣り合いが取れているかと聞かれると疑問符が付いてしまう。
もしも、俺が千鶴の相手なら・・・。
そこまで考えたところで俺の思考は仕方なく、止められた。
見覚えのある人物が目の前に現れたからだ。
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