もしもの恋となのにの恋
「・・・残酷だ」
「え?」
夏喜のその声に俺はハッとさせられた。
俺はその場しのぎ笑みを浮かべ、助手席にいる夏喜をそっと見つめ見た。
夏喜は不思議そうな顔をして俺を見つめていた。
これと言って何の特徴もない顔だ・・・。
俺はそんな失礼なことを心の内で呟き、小さな声で『何でもない』と吐き捨てた。
それを夏喜は咎めも追及もしなかった。
夏喜のそんなところは好きだ。
俺はもう一度、小さな声で『何でもない』と言って口をつぐんだ。
目的地の水族館はもう目の前だ。
なのに、一向に着かないようなそんな錯覚に俺は襲われた。
もしも、隣にいるのが千鶴ならば・・・。
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