もしもの恋となのにの恋
直感

「千鶴?・・・顔色、悪いけど大丈夫?」
俺の質問に千鶴は苦い笑みを浮かべ、小さな声で『大丈夫』と呟いた。
嘘だな・・・。
俺にはわかる。
今、千鶴は無理をしている・・・。
「・・・少し座ろ?」
俺はそう千鶴を促し、水族館内の敷地にある公園のベンチに千鶴を誘った。
千鶴は『うん』と頷き、俺が勧めたベンチに腰をかけた。
「・・・司、ごめんね?」
千鶴の言葉に俺は苦笑した。
「何で謝るの?千鶴は何も悪くないよ?」
俺がそう言うと千鶴ははにかんだ笑みを浮かべ『ありがとう』と囁くように言った。
本当にそんな千鶴が愛しい・・・。
「階段から落ちた時の傷痕が痛くって・・・」
千鶴はそう言って左側の後頭部を優しく擦った。
それと同時に俺の胸の奥深くもズキンと痛んだ。
「・・・司?どうしたの?」
「・・・え?何でもないよ。・・・千鶴、本当に大丈夫?」
千鶴は優しい・・・。
そして、千鶴は人の痛みに敏感だ。
「大丈夫。・・・平気だよ!」
そう無理に言った千鶴の顔色は相変わらず悪かった。
千鶴は高校二年の春、階段から落ちて意識不明の重体に陥るほどの事故に遭った。
学校はそれを事故と判断したが俺はその判断を今も納得していない。
意識を取り戻した千鶴も自分が階段から足を踏み外したことによる事故だと言ったが俺はその千鶴の言葉に違和感を感じた。
嘘だ・・・。
直感的に俺はそう感じた。
< 46 / 105 >

この作品をシェア

pagetop