もしもの恋となのにの恋
海
もしも、千鶴なら・・・。
俺はそんなことを思いつつ、目を閉じた。
やめよう・・・。
そんな『もしも』のことを考えても仕方がないし、自分が惨めになるだけだ。
俺は大きな溜め息を吐き出し、閉ざしていた目を見開いた。
暗い天井がぼんやりと見えた。
水の中にいるみたいだ・・・。
俺はそんなあり得ないことを心の内で思った。
ここは俺の部屋だ。
水の中なんかじゃない。
・・・忍なら俺の気持ちをわかってくれるだろうか?
またそんなあり得ないことを俺は心の内で思った。
忍はもういない・・・。
忍はあの夏、あの海で死んだ・・・。
わかっている。
そんなことはわかっているがそう思い、考えるぐらい別にいいだろう?
誰が俺を責められる?
誰も俺を責められるわけがない。
忍は俺の唯一無二の親友だった。
その親友を俺はあの夏、失った。
俺は海が嫌いだ。
そう忍に言ったら笑われた。
忍は海が好きだった。
そして、忍本人も海のようなヤツだった。
『海で死ねて幸せだったろう?』
通夜の晩、俺は棺桶の中にいる忍にそう言って笑った。
それを聞き、見ていた人たちは不謹慎なヤツだと呆れただろう。
けれど、俺と忍はそう言う間柄だった。
これでいいんだ・・・。
俺は一人、納得をした。