もしもの恋となのにの恋
その笑顔が見れたのなら
やっぱり秋人はまだ、千鶴のことが好きなんだな・・・。
そう思うと戸惑いと申し訳なさとが入り交じった重たい溜め息が無意識のうちに溢れ出ていた。
俺は明かりの消えたLDKをベランダの窓越しから見つめ、もう一度、重たい溜め息を吐き出した。
千鶴は優しい・・・。
それでいて時に冷酷だ。
そこが千鶴の魅力であり、欠点でもあり、俺を困惑させる箇所でもある。
どうやらそれは秋人も同じらしい。
俺はゆっくりとベランダのテラス窓を開け、明かりのなくなったLDKへこそこそと入り込んだ。
まるで泥棒だな・・・。
そう思うと少し笑えた。
この家の主は俺なのに・・・だ。
千鶴はもう寝ているだろう。
俺はリビングの壁に掛けられている何の飾りもない安い掛け時計へと目を向けた。
その時計の針は午前1時を少し過ぎた頃だった。
明日・・・と言うか今日は俺も千鶴も仕事が休みだ。
まだ何の予定も立てていないがどこか二人でゆっくりと出掛けるのもいいかもしれない。
本当に久しぶりの休日デートだ。
どこに出掛けようか?
できることなら千鶴の行きたいところに連れて行ってやりたい。
だが、千鶴はそう聞いても本当に行きたいところをはぐらかすだろう。
それは俺の体調を気遣っての行動だ。
そんなこと、わかっている・・・。
千鶴は本当に優しい。
とりあえず、千鶴が喜びそうな場所は長年の付き合いで知っている。
二人の準備ができ次第、そこに出掛けてみよう。
少しでも千鶴のその笑顔が見れたのなら俺はそれだけで幸せなんだ・・・。
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