もしもの恋となのにの恋
「人って・・・」
秋人はそこで言葉を飲み込み、どこか痛むような笑みを滲ませた。
「・・・人って・・・無力だよな・・・」
無力・・・。
秋人のその言葉が脳内で静かに木霊する。
人は無力・・・。
本当にそうだと思う。
秋人が言うと余計にそうだと感じさせられる。
秋人の言葉はいつも重い・・・。
「もしも・・・あの時・・・もっと俺がしっかりしていれば忍を助けられたかも知れない」
秋人のその言葉に私は瞬いた。
そんなこと・・・。
「・・・そんなこと・・・わからないよ・・・」
そう言った私の声はひどく震えていた。
そんな『もしも』のことを考えても仕方がない・・・。
虚しくなるだけだ。
わかっている。
けれど、その『もしも』を私たちは考えずにはいられない。
『もしも』あの時・・・。
私も秋人も夏喜もあの時、あの場所にあの場面に居合わせた誰もがその『もしも』の呪縛に今も捕らわれているのではないだろうか?
私はそう思う・・・。
特に私と秋人は・・・。
秋人と忍は唯一無二の親友だった。
そんな二人が羨ましかった。
そして、それ以上に私はそんな二人を見るのが好きだった。
私と秋人は小学校に上がる前からの友人でいつからかそこに忍が加わり、小学校に上がってからはそこに夏喜が加わった。
かけがえのない私の友人たち・・・。
秋人が笑う。
忍が笑う。
夏喜が笑う。
秋人と忍が喧嘩をする。
私と夏喜がそれをなだめる。
馬鹿なことをして大人に怒られたこともある。
その度に私たちはお互いを庇い合って慰め合った。
毎日がキラキラと輝いていて幸せだった。
ずっとそんな時が続くと思っていた。
けれど、現実は違った・・・。
現実はいつだって残酷だ・・・。