もしもの恋となのにの恋
「わからないけれど・・・だ」
秋人はそう言うとニコリと微笑んで力なく項垂れた。
秋人のせいじゃないよ・・・。
私は心の内でそんなことを呟いてみる。
秋人のせいで忍が死んだんじゃない。
あれは不慮の事故だったんだから・・・。
誰だってそんなこと、わかっている。
それでも秋人は自分を責めるし、私も自分を責めている・・・。
あの日、海に行こうと言ったのは私だった・・・。
私が海に行こうなんて言わなければ忍はあんな事故に遭わなかっただろう。
そして、秋人が自分を責めることもなかったはずだ。
悪いのは私・・・。
私が全て悪い・・・。
そう、全て・・・。
私はヨロヨロしながら重たい上体をベッドの上に起こし、大きな溜め息を吐き出した。
それと同時にパタパタと滴が布団の上にこぼれ落ちた。
その音に気づいてか秋人が私の方を振り返る。
「・・・千鶴」
私を心配する秋人の声はひどく悲しく、それ以上に優しかった。
「・・・ごめんなさい」
無意識の内にその言葉が口を突いて出てきてしまっていた。
それはいつも私の心の内で渦巻いている言葉だった。
海に行こうなんて言ってごめんなさい・・・。
忍を事故に巻き込んでごめんなさい・・・。
秋人を傷つけてごめんなさい・・・。
夏喜を苦しめてごめんなさい・・・。
司を頼ってごめんなさい・・・。
本当にごめんなさい・・・。
私なんていなければよかった・・・。
本当に本当にごめんなさい・・・。
滴はパタパタとこぼれ落ち続け、布団にはその滴のせいでいくつものシミができあがっていた。
それは薄黒く、底無し沼のようなシミだった。
ふと重たく、悪寒のする体が何かに包まれた。
それは暖かくて安心できる何かだった。