もしもの恋となのにの恋

「人って・・・」
俺はそこで言葉を飲み込み、苦いような笑みを滲ませた。
このまま続きの言葉を口にしていいものかと少し悩む。
「・・・人って・・・無力だよな・・・」
人は無力・・・。
俺はいつも思っていることをそのまま口にした。
俺のその言葉を千鶴はどう思っただろうか？
人は無力・・・。
俺はいつもそう思う・・・。
特に俺はその中でもずば抜けて無力だ。
「もしも・・・あの時・・・もっと俺がしっかりしていれば忍を助けられたかも知れない」
俺のその言葉に千鶴は瞬いた。
『そんなこと』と言いたげな表情をしている。
「・・・そんなこと・・・わからないよ・・・」
ほら、当たった・・・。
ただ、そう言った千鶴の声は予想以上に酷く震えていた。
そんな『もしも』のことを考えても仕方がない・・・。
わかっている。
けれど、その『もしも』を俺たちは考えずにはいられない。
『もしも』あの時・・・。
俺も千鶴も夏喜もあの時、あの場所にあの場面に居合わせた誰もがその『もしも』の呪縛に今も捕らわれているのではないだろうか？
俺はそう思う・・・。
特に俺と千鶴は・・・。
俺と忍は唯一無二の親友だった。
忍と千鶴は両思いだった。
俺はそんな二人が羨ましかった。
そして、俺は誰よりも二人の幸せを願っていた。
心の底からそう願っていた。
だが、その願いはあの日、無情にも潰えてしまった・・・。
現実はいつだって残酷だ・・・。