もしもの恋となのにの恋

忍が死んで一ヶ月が過ぎ去った。
だか、時間は止まらないし、世界も終わらない。
どうやら人一人の命では時間は止まらないし、世界もその人一人の命で終われるほど安くはないらしい・・・。
現実はいつだって残酷だ・・・。
千鶴はあれからずっと学校を休んでいる。
それどころか夏喜の電話にも千鶴は出ないらしい。
おばさん(千鶴の母親)の話では千鶴は部屋に籠ったきりで食事もろくに摂らないと言う。
心配だ・・・。
俺は白い花の飾られた忍の机をぼんやりと見つめ見た。
その右隣の席も空いている。
当たり前だ。
そこは千鶴の席なのだから・・・。
夏喜はあれからも学校を休むことなく出て来ている。
それでも前ほどの元気はない。
そして、俺自身も・・・。
クラスの奴らは興味本意であの事故のことを聞いてくる。
それが俺は腹立たしくてならない。
人一人の命だ。
安いわけがない・・・。
それをなんだと思っている?
クラスの奴らだけじゃない。
事故当初はテレビ局の奴らも新聞記者も近所の野次馬までもが話を聞こうとやって来た。
嗚呼、本当にウザったい・・・。
忍でなくお前たちならよかったのに・・・。
そんなことを俺は心の内で呟いた。
まるで、滅びの呪文のように・・・。
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