もしもの恋となのにの恋

私はいつの間にか秋人に押し倒されていた。
その状況を私はなかなか理解することができなかった。
なぜ、秋人は私なんかを押し倒したのだろう?
そんなことをまだ僅かに痛む頭で考えた。
けれど、その答えは出てこなかった。
私の上にいる秋人はいつも以上に無表情だった。
けれど、怖いとも思わなかったし、怖いと言う感じもしなかった。
ただ、私は今の状況に困惑していた。
ただ、何が起こっているのかわからない・・・。
ただ、それだけのこと・・・。
「・・・秋人?」
小さな声で秋人の名前を呼んでみる。
秋人はそれに返事を返してはくれなかった。
秋人は相変わらず無表情だ・・・。
「・・・何か言ってよ」
私は今の状況に堪えかねてそんなことを口にした。
秋人の口が僅かに動きだす。
「・・・千鶴のその『好き』は『男として』じゃないだろ?」
秋人の言葉に私はゆるゆると首を横に振った。
それを見ても秋人の無表情は変わらなかった。
「・・・嘘、吐くなよ」
秋人は吐き捨てるようにそう言うと冷笑を湛えた。
その時はじめて、今の秋人を怖いと感じた。
秋人は床ドンをする感じで私を押し倒していたけれど、特に私は押さえつけてはいなかったし、逃げようと思えばいつでも逃げられる状況だった。
なのに心のどこかで『絶対に逃がしてもらえない』と私は確信していた。
これから私はどうなるのだろう?
そう考えるとゾクゾクもワクワクも不安も期待も恐怖もが胸の内でうち寄せては返す波のように揺れていた。
秋人が身動ぎをし、ベッドが軋んだ。
秋人はそっと私の髪に触れた。
秋人の手はほんのりと温かかった。
「千鶴の俺を思うその『好き』は『男として』じゃない。・・・バレバレの嘘なんて吐くなよ」
秋人は改めてそう言うと小さな溜め息を吐き出した。
その溜め息は小さいのに重く、深い溜め息だった。
「・・・そんなこと・・・ない。・・・私はずっと秋人のことが・・・」
「黙れ」
私の言葉を遮りそう言った秋人の声音はきつく、その制止を求める口調もきつかった。
そんな秋人に私はドキリとさせられた。
そして、何よりも『それ以上の言葉は許さない』と言っていることがはっきりとわかった。
私は仕方なくその続きの言葉を飲み込んだ。
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