もしもの恋となのにの恋

「・・・秋人」
千鶴の声は相変わらず微かに震えていた。
それでもその声は先程よりは、はっきりとしていた。
俺は千鶴の呼びかけに『うん?』と返事を返した。
「秋人は・・・夏喜と付き合っているの?」
千鶴の問いに俺は大きな溜め息を吐き出した。
「・・・ああ」
俺の返答に千鶴は『そう』と言っただけだったが何かを考えていることは何となくわかった。
それだけの時間を俺たちは一緒に過ごしてきている・・・。
「本当は・・・」
俺はその言葉の先を飲み込んだ。
本当にその先の言葉を口に出して言ってもいいものなのだらうか?
ふと、不安に駆られる。
・・・やっぱり、言おう。
その決断は呆気なく出た。
俺はその言葉の先を口に出すことを選んだ。
物事はなるようにしかならない・・・。
そんなことを心の内で呟き、自分に言い聞かせてみる。
俺は千鶴を抱きしめ直し、ゆっくりと口を動かし、声を出し、言葉を紡いだ。
「本当は俺は夏喜のことが好きじゃない・・・」
俺の言葉に千鶴は『え?』と困惑の声を漏らした。
当然だ・・・。
千鶴が困惑するであろうことはわかりきっていた。
なのに・・・だ。
俺はそれでもその言葉を口に出さずにはいられなかった。
千鶴には本当の俺を・・・本当の俺の気持ちを知っていて欲しい・・・。
それらを知って千鶴が俺のことを嫌いになっても傷ついても俺はそれを望む・・・。
俺は傲慢で強欲な人間だ・・・。
「俺は・・・夏喜に復讐するつもりだ」
千鶴は俺のその言葉を聞くと『何で?』と震える声で訊ねてきた。
俺はその理由を正直に話すことを選び、決めた。
「夏喜は・・・千鶴を殺そうとしただろ?」
俺の言葉に弾かれたかのように千鶴は俺を突き放し、目を見開き、ベッドの下に落ちた俺をベッドの上から見つめ見下ろしていた。
千鶴のその目にははっきりと困惑と焦りの色が滲んでいた。
「・・・何で?」
千鶴はぼそりと呟くように問うてきた。
「俺は・・・あの瞬間を見ていた」
俺の言葉に千鶴はひゅっと息を飲み込んだ・・・。
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