もしもの恋となのにの恋
「・・・俺は夏喜を許さない」
俺は冷たいフローリングの上で誓うようにそう呟いた。
その一方で千鶴は暖かいベッドの上で青ざめていた。
俺があの瞬間を見ていたことなど千鶴は知りもしなかっただろう・・・。
そして、そんな想像もしてはいなかっただろう・・・。
だが、現実はいつだって残酷だ・・・。
「その様子だと誰が自分を突き落としたか知ってたんだな・・・千鶴」
俺の問いに千鶴は小さく頷くとガクリと項垂れた。
そんな千鶴を俺は黙って抱きしめた。
何かが軋む音をたてる・・・。
その軋む音は崩壊を予感させる音だったがそれでもいいと俺は思った。
崩壊してもいい・・・。
今は・・・今だけは千鶴を抱きしめていたい・・・。
俺は壊れてもいい・・・。
けれど、千鶴にだけは壊れて欲しくない・・・。
例え、世界が滅んだとしても俺は千鶴にだけは生きていて欲しい・・・。
それが残酷な願いだとしても・・・。
「・・・ごめん」
俺はぼそりと謝った。
千鶴が『何で?』と聞いてくる・・・。
俺は大きな溜め息を吐き出し、千鶴を力一杯に抱きしめた。
「・・・夏喜は千鶴に嫉妬していた。その嫉妬の原因は俺だ・・・」
夏喜は千鶴に嫉妬していた・・・。
そして、その嫉妬の原因は他ならぬ俺だ・・・。
夏喜は知っていた。
俺が千鶴のことを好きだと・・・。
「・・・意味がよく、わからない」
千鶴の言葉に俺の胸は痛いほど締め付けられた。
それでもその言葉の意味をきちんと説明する義務が俺にはある。
そして、千鶴にはそれを知る義務がある・・・。