もしもの恋となのにの恋
「・・・忍」
俺は一人、教室に残り、本を読んでいた忍に声をかけた。
忍は返事もせずに俺のいる後ろの方を振り返り、緩く微笑んだ。
「・・・何かあったのか?」
忍のその緩い微笑みに何かのつっかえを感じた俺は忍を睨むように注視し、そう訊ねてみた。
すると忍は『んー?』と声を漏らし、また緩く微笑んだ。
何かあったな・・・。
俺はそう直感した。
忍は困ったことがあると必ずと言っていいほど緩く微笑む。
「・・・言えよ」
俺はそう言って忍の机の上にどかりと腰かけた。
もしも、今、千鶴がこの場にいたならば『行儀が悪い』と叱責されてしまうだろう。
千鶴は変に厳しい・・・。
「・・・秋人は千鶴のこと、好き?」
忍のいきなりの質問に俺は瞬いた。
何と返そうか・・・。
そう思っていると忍と視線が合わさった。
忍は真っ直ぐに俺を見つめていた。
嘘は吐けない・・・。
俺はそう直感した。
「・・・好きだよ」
俺ははっきりとそう言いきった。
それは嘘じゃない・・・。
それは本当のことだ・・・。
俺は千鶴のことが好きだ。
そして、忍も・・・。
「・・・そう。俺も好きだよ。・・・千鶴のこと」
忍はそう言うとニコリと微笑んだ。
それはまるで向日葵のような微笑みだった・・・。