もしもの恋となのにの恋
選択
「・・・千鶴、俺と付き合って」
秋人のその言葉に私は思わず吹き出した。
まさか、秋人に告白されるなんて夢にも思っていなかった・・・。
けれど、誰かに『好き』と言われるのは当然のことながら嬉しいものだ。
『・・・千鶴、俺はお前のことが好きだ。・・・そして、忍もお前のことが好きだった』
『忍とお前は・・・両思いだったんだよ』
『・・・忍は俺に気を遣ったんだ』
『・・・俺が・・・千鶴のことを好きだったから・・・』
ふと、秋人の言葉が甦る。
忍は私に嘘を吐いていたわけだ・・・。
忍は間違いなく秋人に気を遣い、私と秋人をくっつけようとしていた・・・。
自分は夏喜のことが好きだと私に嘘まで吐いて・・・。
忍らしい嘘だ・・・。
けれど、私は忍のその嘘を許せそうにない。
『好き』なら『好き』と言って欲しかった・・・。
回りくどい嘘など吐いて私を遠ざけずに・・・。
けれど、私も私だ・・・。
私は忍に『好き』と言わなかった。
いや、言えなかった・・・。
もしも、忍に『好き』と言って私たちの関係が崩れてしまったらと思うとどうしても私は忍に『好き』と言えなかった・・・。
私は臆病者の卑怯者だった。
今の私なら忍に『好き』と言える。
私は少しだけ・・・本当に少しだけ・・・まともな人間になれた・・・。
私をそう変えてくれたのは紛れもない、司だ。
司はいつだって純心だ。
司のその純心さが私を変えてくれた。
『好き』なら『好き』。
『嫌い』なら『嫌い』。
私は元からそれらをはっきりさせる人間だ。
けれど、どうしても親しい人たちにはそれが疎かになってしまう傾向にある。
もしも、『あなたのこんなところが嫌い』と言ってこの心地のいい関係が崩れてしまったらと思うとどうしても気が引けてしまう。
けれど、司にはそれがない。
司はいつだって真っ直ぐだ。
司は親しかろうが親しくなかろうが『好き』、『嫌い』をはっきりと口にする。
またはそれは『いい』、『悪い』でもある。
司は自分の心のままの言葉を口にする。
簡単そうでそれはなかなかできないことだと私は思う。
そんな司のお陰で私は少しだけ・・・本当に少しだけ・・・まともな人間になれた。
だからもっとまともな人間になりたいと私は思う。
人は傲慢で強欲な生き物だ。
そして、人生はいつだって選択の連続だ・・・。
私はまた人生の大きな選択を強いられている・・・。
私はいつだって私の意思に従う・・・。
私が私であるために・・・。