もしもの恋となのにの恋
「・・・俺は」
俺はそこで口ごもってしまった。
本当にありのままの言葉を口に出していいのだろうか?
本当にそんなことが許されるのだろうか?
俺は少し、眠気の出始めた頭で必死に思案した。
「・・・正直に答えて欲しい」
戸惑い悩んでいる俺の背中を押すように宮原さんは独り言のように言った。
俺はその後押しに乗っかり、甘えることにした・・・。
「好き・・・です。・・・すみません・・・」
クス・・・。
不意に遠慮がちな笑い声が聞こえた。
俺はその遠慮がちな笑い声を漏らした本人、宮原さんへと目を向けた。
車を運転している宮原さんの横顔は本当に穏やかだった。
まるで、春の木漏れ日のように・・・。
「謝ることなんて何もないよ」
宮原さんのその言葉に俺の胸の奥はズキリと痛んだ。
俺のその胸の痛みを察してか宮原さんが言葉を付け足す。
「秋人も千鶴も清廉潔白・・・だろ?」
そう言って笑った宮原さんの横顔はひどく子供っぽく見えた。
そして、それは子供が大人に悪戯をして大成功した時の笑みによく似ていた。
清廉潔白・・・。
俺は心の内でそう呟いて目を閉じた。
「・・・千鶴は俺を裏切らない。そして、秋人は千鶴を傷つけない」
暗闇の中、自信ありげな強い口調で宮原さんはそう言った。
俺はゆっくりとその暗闇の中から抜け出した。
「告白・・・したんですけれど・・・見事にフラれました」
俺はそう言って笑った。
自然に出たその笑みは苦くはなかった。
『秋人の気持ちは本当に嬉しい。けれど、私は秋人のことを今は一人の男性として見ることができない』
それが千鶴の答えだった。
千鶴がそう言うであろうことはわかっていた。
それでも俺は千鶴に『好き』と言い『付き合って欲しい』と言った。
宮原さんと言う婚約者がいるのに・・・だ。
選ぶのは千鶴だ。
そう思うとタガが外れてしまった・・・。
けれど、今はそれでよかったと心の内からそう思う。
スッキリした。
これでいい・・・。
これでいいんだ・・・。