もしもの恋となのにの恋

「・・・秋人はどうして夏喜ちゃんが千鶴を階段から突き落とした犯人だと知っていたのかな?」
俺は先ほどから気になっていた疑問をそのまま口にした。
それに対して秋人は少し、嫌そうな顔をした。
秋人も苦しんでるんだろうな・・・。
そう思うと胸の奥がズキリと痛んだ。
「・・・俺、見ていたんです」
「え?」
俺は秋人の言葉に瞬いた。
それと同時に車体が少し揺れた。
「もちろん、たまたまですよ。けれど、俺はその瞬間を見ていた・・・」
秋人のその声音と口調はいつも以上に落ち着き、淡々としていた。
それがなんだか俺は怖かった。
「夏喜は千鶴を階段から突き落とした・・・。下手をしたら千鶴は死んでいた。千鶴は生きているけれど、あの時の怪我が原因で未だにひどい頭痛に苦しめられている。・・・何よりも千鶴は夏喜に突き落とされたことにショックを受けているでしょう・・・。まあ、当然のことですけれど・・・」
千鶴も自分を階段から突き落とした犯人を知っていたわけだ・・・。
やはり、あの事故は事故ではなかった。
そして、その真実は本当に残酷なものだった・・・。
「・・・俺は夏喜を許さない」
そう言った秋人の声音は本当に無感情だった。
俺はチラリと秋人の横顔を窺った。
綺麗な横顔だ・・・。
男の俺が見てもそう思うほど秋人の顔は整っている。
普通な顔をした俺とは違う・・・。
卑屈な感情抜きでも俺はそう思う。
「秋人は・・・夏喜ちゃんをどうするつもりなんだい?」
俺は少しドキドキしながら秋人にそう訊ねた。
ドキドキ・・・。
いや、違うな・・・。
正確にはドキドキではなくハラハラだ。
「・・・俺は夏喜に復讐するつもりです」
秋人のその言葉に俺は生唾をゴクリと飲み込んだ。
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