もしもの恋となのにの恋
「いや・・・正直に話してくれて嬉しいよ」
俺はそう言って自然に笑んでいた。
本当にそう思う。
一度、秋人とはゆっくり話したいと思っていた。
それが今、叶った。
今、このタイミングで本当によかった・・・。
「秋人・・・」
俺は少しずつ言葉を紡いだ。
ゆっくり・・・ゆっくり・・・。
少しずつ・・・少しずつ・・・。
大切に慎重に着実に・・・。
思いを思い出を言葉を愛を俺は紡ぐ・・・。
「俺は・・・千鶴との婚約を破棄する」
「・・・え?」
俺は笑った。
秋人はただ、驚いていた。
「な、何でですか?」
秋人の問いに俺は『うーん・・・』と声を漏らしてみた。
何で・・・か・・・。
「きっと・・・」
俺は馬鹿な頭で必死に言葉を紡いだ。
走馬灯のように千鶴との思い出が頭の中を駆け巡る・・・。
嗚呼、懐かしい・・・。
嗚呼、愛しい・・・。
嗚呼、痛い・・・。
「きっと千鶴の運命の王子様が俺じゃないから・・・かな?」
そうだ・・・。
そう言うことにしておこう・・・。
俺は千鶴の運命の王子様にはなれなかった。
けれど、それでいいんだ・・・。
俺はお姫の乗る馬車の馬にでもなろう。
俺にはそっちの方がお似合いだ。
俺は脇役でないと輝けないのだから・・・。
「そ、そんなことないですよ!」
悲鳴に近い声を秋人は上げた。
本当にそれは珍しいことだと思う。
秋人はいつだって落ち着いている。
なのに・・・だ。
なのにそんな声を秋人は出した。
それは千鶴が関わることだからだろう。
「そんなこと、あるよ」
そう言って笑んだ俺の心は静かだった。
俺の心は静かだったが不思議とそこに虚無感はなかった。
俺の心の内は静かで暖かかった。