もしもの恋となのにの恋
変わる
ピンポーン・・・。
静かな静寂を切り裂くその音に私は小さな溜め息を吐き出した。
一体、誰だろう?
私は気だるい身体を芋虫のようにモソモソと動かし居心地のいいベッドから抜け出した。
ベッドの外は少し、肌寒かった。
私はパジャマの上にカーディガンを羽織り、玄関先へと向かった。
その時、ガチャリと言う音が聞こえ、黒っぽい玄関の扉がゆっくりと開かれた。
開かれた扉のその先にいたのは・・・。
「・・・司」
私はただ、そこにいる司に驚いた。
「千鶴、おはよう。体調、悪い?」
そう言って部屋の中に入ってきた司はいつも以上ににこやかで明るかった。
「少し・・・ほんの少しだけ。・・・司は今日、お仕事じゃないの?」
私は戸惑いつつ司にそう訊ねてみた。
何となく胸の奥がざわつく・・・。
「休んだんだ。千鶴・・・ちょっといい?」
司の言葉に私は無言で頷き、リビングへと向かった。
そのあとを静かに司が付いてくる・・・。
「・・・コーヒーでも飲む?」
私はゆっくりと振り返りつつ、すぐ後ろにいる司にそう訊ねてみた。
私が完全に振り返るよりも早くに司は私を強く、抱きしめていた。
私はそれに瞬いた。
嗚呼、司はわかっているんだ・・・。
私はゆっくりと司を抱きしめ返した。
嗚呼、暖かい・・・。
「・・・ごめんなさい」
私は本当に小さな声で司にそう謝った。
司は私の耳元で『いや』と呟いた。
「俺、さっきまで秋人と一緒にいたんだ。ゆっくり話をしたよ」
さっきまで秋人と?
私はその言葉を飲み込んだ。
「千鶴が俺を裏切っていないのはわかってる。秋人と千鶴が清廉潔白なのもわかってる。けれど、俺は千鶴との婚約を破棄したい・・・」
私はそっと目を閉じた。
トクン・・・トクン・・・。
私のものか司のものかわからない心音が微かに聞こえた。
落ち着く、暖かなその音と共に司との思い出が走馬灯のように思い出され私の頭の中を恐ろしい速度で駆け巡った。
一緒に笑った。一緒に泣いた。些細なことでケンカをして、すぐに仲直りをした。
美味しいものを食べてはしゃいで騒いで思い出を作って仕事の愚痴を聞きあってアドバイスしあってお互いにまた頑張ろうって思って今までやって来た。
そんな日々がこれからも続くと思っていた。
けれど、それも今日で終わってしまう・・・。
永遠にそんな日々が続けばよかったのに・・・。
もっともっと司とは一緒に居たかった。
けれど、このままじゃ私はいけない。
私は・・・私たちはあの頃から何も変わっていない・・・。
だから今、変わらなければいけないんだ・・・。
現実はいつだって残酷だ。
だから強くならないといけないんだ・・・。