もしもの恋となのにの恋
親友
「千鶴ー!・・・ごめんね!・・・待った?」
息を切らし私の元に駆け寄って来た夏喜に私は『私も今、来たところ』と小さな嘘を吐いた。
それに夏喜はもう一度『ごめんね』と謝罪の言葉を口にした。
私はそれに黙って首を横に振り、ゆっくりと歩きだした。
隣の夏喜もゆっくりと歩きだす。
「この近くにね、美味しいコーヒー屋さんがあるんだけれどそこ、行かない?」
「うん!もちろん、いいよ!」
私の提案に夏喜はいつも笑顔で賛成してくれる。
今日も夏喜は笑顔で賛成してくれた。
けれど、その心の内は当然のことながらわからない・・・。
私は今、夏喜を疑い、夏喜を監視している・・・。
夏喜は私の唯一無二の親友・・・。
なのに・・・だ。
私は本当に最低の最悪だ・・・。
「・・・千鶴、何かあったの?」
夏喜の問いに私は堪らず吹き出した。
やっぱり夏喜は私の唯一無二の親友だ・・・。
「実はね・・・」
私はあえてそこで笑い、言葉を区切った。
ゴクリ・・・。
そんな生唾を飲み込むような音がどこからか聞こえた気がした。
「司に・・・婚約破棄、されちゃった」
「・・・え?・・・何?・・・嘘でしょ?てか、はぁ!?」
夏喜は大声でそう言うとその場にピタリと立ち止まり、目をカッと見開いた。
数人の歩行者が夏喜の剣幕に気づいてか好奇で無遠慮な視線を投げかけてくる。
私はそれが何だか面白くてくすぐったかった。
それはまるで他人事だ・・・。
「何で!?何で今更!?てか、何で千鶴は笑ってるの!?」
叫ぶと言うよりは怒鳴るように夏喜はそう言ってカッと見開いたその目にうるうると涙を滲ませた。
「何でって言うのなら何で夏喜がそんなに怒るのよ?本当に可笑しいんだから、夏喜ってば」
私は苦い笑みを満面に浮かべ、必死に涙を堪えている夏喜へと近づいた。
「当たり前でしょ!?千鶴は私の唯一無二の親友なんだから!」
そう・・・なんだ・・・。
夏喜のその言葉に私は小さな溜め息を吐き出した・・・。