もしもの恋となのにの恋

「・・・なら。・・・なら、何であの時・・・夏喜は私を階段から突き落としたの?」
私はじっと夏喜を見据え、訊ねた。
嘘、偽りは許さない・・・。
そう言うように・・・。
「・・・え?・・・ちょ、ちょっと待ってよ千鶴!一体、何を言ってるの!?私がそんなことするわけないでしょ!?だって千鶴は私の唯一無二の・・・」
「夏喜!」
私は喉が痛くなるほどの大声を人目も憚らずに発した。
先ほどよりも多くの人たちがこちらへと視線を注ぐ・・・。
嗚呼、まるでドラマのようだ・・・。
不意にそんなことを心の内で思った。
またこれも他人事だ・・・。
「夏喜・・・嘘はもう、吐かないで・・・。お願いだから本当のことを話して・・・。私たち、唯一無二の親友でしょ?」
私は本当に意地悪だ・・・。
唯一無二の親友・・・。
そう言えば夏喜の心が揺れ動くことを私は知っている。
それを知っていて私はあえて『唯一無二の親友』と言う魔法であり、呪縛である言葉を口にした。
夏喜は優しいし、純心だ。
そのことを私はよく知っている・・・。
そして、夏喜が傷つき、後悔していることも私を時々、疎ましく思っていることも・・・。
ただ、私が知らなかったことは夏喜が秋人のことを『好き』と言うことだ。
夏喜は秋人のことが好き・・・。
私は心の内でそう呟いて改めて夏喜を見つめ見た。
夏喜の顔からは血の気が引いていた。
そんな夏喜の後ろでざぁーっと紅葉した街路樹が木枯らしに吹かれ、舞い散った。
それはまるで血飛沫のようだった・・・。
もちろん、本物の血飛沫なんて見たことはないけれど、それは私がイメージしているものとよく似ていた。
夏喜が誰かに斬られたんだ・・・。
不意にそんなことを思った。
あの街路樹の紅葉した葉は夏喜の血飛沫で夏喜を斬ったのは・・・間違いなく私だ。
私は夏喜を斬った・・・・。
躊躇いもなくバッサリと・・・。
これは復讐・・・。
そんなことを心の内で呟いてみる。
「・・・夏喜、私・・・秋人に告白しようと思うんだ」
「え!?」
私のその言葉に夏喜は大きく目を見開き、血の気の引いていた顔を今度は真っ赤に染め上げた。
本当に夏喜は秋人のことが好きなんだ・・・。
唯一無二の親友なのにそんなことも私は知らなかった・・・。
嗚呼、本当に恥ずかしい・・・。
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