もしもの恋となのにの恋
「千鶴、ちょっと待ってよ!!アナタ・・・本当に正気!?」
夏喜がものすごい剣幕で吠えだした。
私はそれを鼻で笑った。
嗚呼、本当に私は嫌な女だ・・・。
「少なからず今のアナタよりは正気だよ?夏喜・・・」
私はそんなことを平気で口にした。
当然のことながら夏喜は更に憤慨した。
「何で!?アナタ、先輩と別れたばかりなんでしょ!?」
夏喜は私の前では司のことを先輩と呼ぶ。
私が居ない時は確か『宮原さん』だったかな?
まぁ、そんなこと、今はどうでもいいのだけれど・・・。
「そうだよ?・・・何か問題でもある?」
そう言って私は夏喜に微笑みかけた。
私の唯一無二の親友は鬼の形相へと変貌していた・・・。
「ふざけないで!秋人は今、私と付き合ってるのよ!?私、千鶴のことをずっと唯一無二の親友だと思ってきたのに!千鶴、ひどいよ!!」
「・・・ひどいのはお前だろ?夏喜」
秋人・・・。
私はその声の主の名前を飲み込んだ。
「・・・秋人。・・・何で・・・ここに?」
夏喜の顔からまた血の気が引いた。
人ってこんなに血に作用されて顔色が変わるんだ・・・。
秋人はいつの間にか夏喜のすぐ後ろに立っていた。
「夏喜・・・。お前が千鶴をひどいとか言うなよ」
秋人は静かにそう言うと夏喜の横をスタスタと通り抜け、私の前へとやって来た。
無表情・・・。
秋人はこれ以上ないほどに無表情だった。
それでも私には秋人の感情がわかった。
秋人は今、怒っている・・・。
それもこれ以上ないほどに・・・。
「夏喜・・・。お前、何で千鶴を階段から突き落とした?」
秋人の問いに夏喜はヒュルリと息を吸い込んで落ち着きなく潤んだ瞳を泳がした。
「・・・答えろ!夏喜!」
秋人のその怒鳴り声に夏喜はもちろん、私も目を大きく見開き、その身をびくりと震わせ、強張らせた。
それと同時にざぁーっと紅葉した街路樹の葉が血飛沫をおぞましく散らした・・・。