この想いを口にさせてください。




いつもの帰り道。


いつもの時間。


隣にはいつもと同じ、優輝くんがいた。


『良かった…。』


安堵のため息をこぼし、私はそう口にした。


『なにが?』


キョトンとした表情をしながら、優輝くんは私の顔を覗き込んでくる。


『なにがって…お昼休みずっと競争、競争って言ってたから、もしかしたら帰りもかなって…。』


『え?ああ!帰りはさすがにやらないよ。前に一度やったら、ゆずが足ひねっちゃったことあったし。ま、適度な運動は必要だけどな。』


『うっ…。』


もしかして太った?私…。


お腹を少しさすれば、隣からクスッと笑う声が聞こえてきた。


『違うよ。ゆずは運動音痴だからだよ?』


み、見透かされてた…。


かぁっと頬が熱くなっていくのを感じた。


『てか、ゆずは細すぎるよ。しっかりご飯食べなよ?』


『た、食べてるよ!』


『食べてない!おばさんにしっかり言っとかないと…あ。』


そうだ、と言って、優輝くんは私の顔を覗き込んだかと思えば、息がかかりそうなくらいまで顔を近づけてきた。


『っ?!!』


ぼっと、さっきよりもさらに顔が熱くなるのを感じた。


ち、近い…


『おばさんじゃなくて、俺がご飯作ってあげようか?』


『え!』


『兄ちゃんがおいしいご飯を作ってあげよう!』


『に、兄ちゃんって…』


や、やっぱり意識してるのは私だけだよね…。


そう思えば、少しずつ頬の熱が引いていくのがわかった。


私はやっぱり…。


ぐっと唇を噛み締めて、私は少しうつむく。


もし…

もし今想いを伝えたら…

好きって言ったら…


優輝くんは私のこと


妹扱いしなくなるのかな…?


ねぇ…

もしそうなら…

もしそうなら今…


『ゆ…ず…?』


『優輝くん。』


パッと顔を上げて、私は優輝くんの瞳を見つめた。


私…
優輝くんのこと…


『っ…。』


彼が、深く息をのんだのに気がついて、私はハッと我に返る。


私今…


『ご、ごめんなさい!やっぱりなんでもな』


『ゆず。』


っ!


さえぎられるように放たれた声は、いつもより低く聞こえた。

真剣なまなざしで、彼は私を見下ろしていた。


『優輝く…』


いつも笑顔の絶えない彼にとってその表情は、とても珍しいものだった。


『俺、待つのあんまり好きじゃないんだよね。』


『え…?』


『明日は…絶対聞かせて?』


ふっと笑った優輝くんは、まるですべてを見透かしているように見えた。


『ゆずはあんまり言わない子だから。そんなゆずが言おうとしたこと、俺は焦らずにじっくり待ちたい。』


え…


『でも待てるのは明日まで。約束だよ?ゆず。』


ニッコリと微笑んだ優輝くんの笑顔は、今まで見てきた笑顔の中で、1番輝いて見えた。


そんな彼に、私は小さく頷いた。
















その数時間後だった。

おばさんから連絡が来たのは。





“優輝が事故にあったの!ゆーちゃん今から来れる?”





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