この想いを口にさせてください。
彼への想い
『おはよう、ゆず。』
家を出てから1分。
振り返れば、優輝くんは少し小走りで私の元へと駆け寄ってきていた。
『あー…、今日も少し寝坊した…。』
大きなため息をついて、彼は私の隣を歩き始める。
『そんなに急がなくても…。』
うなだれる優輝くんにそう告げれば、彼はぐわっと顔を上げて口を開いた。
『いや!おばさんに言われてるから!ゆずを守ってって!』
ニコリと笑った彼の優しい笑顔に、胸がチクリと静かに痛んだ。
ああ…またか…。
唇を少し噛み締め、拳を握りしめながら、私はなんでもないように笑う。
『そんなお母さんの言葉なんかいいのに…。それに、それは小さい頃の話しでしょ?今はもう大丈夫だよ?』
そう。
小さい頃
近所に住んでいた男の子にいじめられてから、私は外に出ることをものすごく拒んでいた。
それを知らなかった優輝くんは、毎日のように遊ぼうと家を訪れてくれていたが、その応答さえも私は応じなかった。
そんな時、いつも断りを入れてくれていたお母さんが、優輝くんに言ったのだ。
“優輝くん。ゆずを守ってあげてくれないかしら?”
その言葉が優輝くんに何を思わせたのか。
それ以来、優輝くんは私を守ると言ってそばにいてくれる。
『大丈夫じゃない!なにがあるか分からないし。』
『うん…。』
ズキッと、まるで針で刺されたかのように微かに胸が痛んだ。
私はきっと、ずるい人間なのだろう…。
本当ならそんな約束断って、彼を縛り付けることをやめなくてはいけない。
それでも私は、それをやめることなんてできなかった…。
『ゆず、なにぼーっとしてんの?早く行かないと遅刻しちゃうよ?』
『あ…うん…。』
優輝くんが好き。
そんな理由で彼を縛り付けてはいけない
そう思うのに、
もう少しだけ
そうわがままを言う自分がいて、
私はそんなわがままを言う自分を
知らぬうちに受け止めていた…。