この想いを口にさせてください。




ガラッ。

教室のドアを開ければ、本を読んでいたであろう優輝くんがこちらに視線を向けていた。


『あ、ゆずおかえり。』


言いながら、彼は立ち上がって本をかばんにしまう。


『戻ったらゆずいなくて…帰ったのかと思ったらかばんがあったから。どっか行ってた?』


その言葉に、胸がドクンと嫌な音を立てた。


私…
考えれば悪趣味だ…。


告白現場を覗くなんて…。


自分がしてしまったあやまちをあらためて実感して、自分がおこなったことの大きさを痛感する。


『ゆず?』


『あ…』


心配そうに私の顔を覗き込む彼に、ますます申し訳なさが私の心を支配していく。


『ご、ごめんね…。ちょっとトイレ行ってたの…。もう用事は済んだ?』


なにもなかったかのように笑えば、


『あ、うん…。もう大丈夫。じゃ!帰るか!』


少し…ほんの少し、優輝くんは切なげな表情を浮かべた。


そんな彼の姿に、先程の光景が思い起こされて、告白をしていた女の子の顔が浮かぶ。


“好きです!”


耳に残るその声は、一生懸命に彼に想いを伝えていたことがわかる。

どんな思いで、彼女は彼に自分の想いを伝えたのか…。


でもきっと…
そばにいたいと思ったから、彼女は伝えたのだろう…。


そう思うと、なんだか胸が張り裂けそうになるくらいの息苦しさを感じた。


私は…
幼馴染みだからと言う理由をつけて…、そばにいられるという特権を握ってしまった…。


でもそれを握ったことにより、私についてきた代償は


“ゆずは俺の妹みたいだから、守ってやらないとな。”


彼の中で私は、特別な女の子にはなれないということ。


失恋。

結果がわかってしまったこの想いはどこに吐き出せばいいのか…。


家族だって、友達だって…、

優輝くんだって…

この関係を幼馴染みにしか思っていない。


近くて遠い存在。


『ゆず?なにぼーっとしてんだ?帰るぞ。』


『あ、うん…。』


いつかもっと遠くなってしまうのなら、


私はまだ彼の隣に居たい…。


そんなことを考えながら、歩き出した彼の背中を私は追いかけた。





< 5 / 18 >

この作品をシェア

pagetop