この想いを口にさせてください。
ガラッ。
教室のドアを開ければ、本を読んでいたであろう優輝くんがこちらに視線を向けていた。
『あ、ゆずおかえり。』
言いながら、彼は立ち上がって本をかばんにしまう。
『戻ったらゆずいなくて…帰ったのかと思ったらかばんがあったから。どっか行ってた?』
その言葉に、胸がドクンと嫌な音を立てた。
私…
考えれば悪趣味だ…。
告白現場を覗くなんて…。
自分がしてしまったあやまちをあらためて実感して、自分がおこなったことの大きさを痛感する。
『ゆず?』
『あ…』
心配そうに私の顔を覗き込む彼に、ますます申し訳なさが私の心を支配していく。
『ご、ごめんね…。ちょっとトイレ行ってたの…。もう用事は済んだ?』
なにもなかったかのように笑えば、
『あ、うん…。もう大丈夫。じゃ!帰るか!』
少し…ほんの少し、優輝くんは切なげな表情を浮かべた。
そんな彼の姿に、先程の光景が思い起こされて、告白をしていた女の子の顔が浮かぶ。
“好きです!”
耳に残るその声は、一生懸命に彼に想いを伝えていたことがわかる。
どんな思いで、彼女は彼に自分の想いを伝えたのか…。
でもきっと…
そばにいたいと思ったから、彼女は伝えたのだろう…。
そう思うと、なんだか胸が張り裂けそうになるくらいの息苦しさを感じた。
私は…
幼馴染みだからと言う理由をつけて…、そばにいられるという特権を握ってしまった…。
でもそれを握ったことにより、私についてきた代償は
“ゆずは俺の妹みたいだから、守ってやらないとな。”
彼の中で私は、特別な女の子にはなれないということ。
失恋。
結果がわかってしまったこの想いはどこに吐き出せばいいのか…。
家族だって、友達だって…、
優輝くんだって…
この関係を幼馴染みにしか思っていない。
近くて遠い存在。
『ゆず?なにぼーっとしてんだ?帰るぞ。』
『あ、うん…。』
いつかもっと遠くなってしまうのなら、
私はまだ彼の隣に居たい…。
そんなことを考えながら、歩き出した彼の背中を私は追いかけた。