この想いを口にさせてください。
『ゆず!』
『優輝くん。』
昼休み。
廊下を1人歩いていた私に、優輝くんは明るい声で私の名を口にした。
『ゆず。もしかして先生に頼まれた?それ?』
私に声をかけながらも、彼の瞳は私ではなく、私の手元を捕らえていて、
『あ、これ?』
言いながら、何冊も重なった資料を持ち上げれば、優輝くんはコクンと頷いた。
『そうなの。職員室行ったらたまたま頼まれちゃって…』
『そうなんだ。重いだろ?半分持つ。』
そう言って、優輝くんは全部の資料の束を私から取り上げた。
『え!?』
『あ!ゆずはこんくらいな。』
にこっと笑うと、行き場をなくした私の手に、そっと1冊の資料が手渡される。
『え!?だ、ダメだよ!こんな1冊なんて』
『これどこに持ってくの?』
『え?!…た、多目的室…。』
言葉を遮られても、思わずその問いに答えてしまって、ハッとなって私はまた抗議の声をあげる。
『だから!1冊だけじゃ』
『よーし!じゃあ多目的室まで競争な!よーいどん!』
『え?!!ちょ!まっ!』
またも遮られ、風のように駆け出した彼に唖然としていたけど、すぐに私はその背中を追った。
『ゆ、優輝くん待ってよ!』
『はは!ゆずは遅いな!』
そう言って無邪気に笑う彼の笑顔は昔と変わらなくて…。
よく…
追いかけてたな…。
追いつきたくて、追いつけなくて…。
…今も…それは変わらない…。
ただ優輝くんの隣に立ちたくて…、
彼に似合う女の子になりたくて…、
好きになってもらいたくて…。
私はいつも…
彼の背中を追いかけてる…
そんなことをしても無駄だと分かっているのに…。
それでも…
『優輝…くん…!』
『ゆず、ごめん!ちょっと速すぎたよな?』
『っ!』
彼はいつも立ち止まって、こうして優しい笑みを浮かべてくれる。
まるで、
まだそばに居て良いと言ってくれてるみたいに…。
『優輝くん…。』
だから私は、
追いかけることをやめられないんだ…。
『ここからは歩いて行こう!あ!でも、先に多目的室に入った方が勝ちだからな!』
屈託のない笑みを浮かべて、彼はいつも私の歩幅に合わせてくれる。
『うん…!』
そんな彼がどうしようもなく好きで、溢れる想いを少し抑えながら、私はコクンとうなずいた。