名のない足跡
プロローグ
フォーサス国…
世界で二番目に規模の大きい大国。
「そんな、まさか…!!」
フォーサス国カルム城の地下深くの一室に、国王・アラゴ=セレナイトはいた。
彼は、目の前に広がる光景が信じられず、その薄茶の瞳を見張った。
「そんな、はず、は」
動揺を押さえられないまま、切れ切れに呟く。
その言葉は、国王である彼以外は誰もいない部屋に、静かに木霊した。
直ぐに、アラゴは落ち着きを取り戻し、瞳を伏せた。
私はつくづく、運のない男だ―…
そんなことを思い、ふっと笑みが広がる。
妻を亡くしたあの日から、私の運気は下がる一方だったからな…
その笑みは、哀しみに変わり、ため息をついて目の前の現実をしかと見る。
彼がいる部屋には、幾多もの死体が転がっているわけでも、見たことのない怪物がいるわけでもない。
アラゴを絶望へ追いやったのは、彼の目の前にたたずんでいる、たったひとつの石碑であった。
これを見て、知ってしまったからには…
「私はこのまま、王としていてはいけない」
その口調は意外にもしっかりしていた。
避けることの出来ない運命だと知っていたから。
アラゴは腰につけていた短剣を、しっかりと握った。
心残りがあるとすれば、二人の子供のことだ。
彼らには、教えてやりたいことが、まだたくさんあったのに…。
「ラッド…ルチル…」
彼は、静かにその胸に刃を突き立てた。
その瞬間、この国の…この世界の歯車は、静かに動き始めた。
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