名のない足跡
「だーいじょぶ。安心してて」
ロズが笑った瞬間、魔法陣は輝きを増した。
あたしは、目がくらんで、ぎゅっと目を閉じた。
次に目を開けたとき、あたしたちは大きな宮殿の前にいた。
「―――ぅ、わぁ!」
「どうやら、国王のいる宮殿前に送ってくれたようですね」
「無駄にでけぇな」
それぞれが感想を述べていると、急に辺りがざわざわとし始めたことに気がついた。
国民らしき人々が、あたしたちを指さして何か話している。
…ん?指さして?
「貴殿らは何者だっ!!」
宮殿の正門が重苦しい音を立てて開き、中から溢れんばかりの兵士たちが武器を手に現れ、あたしたちを囲んだ。
「ななな、何者って…」
「姫様」
慌てるあたしに、ライトが静かに耳打ちする。
「大勢いる前で正体を明かすのはまずいでしょう」
「そうよねっ…じゃあ何て言えば!?」
ウィンを見ると、しれっとした態度で腕組みをしていた。
あたしの視線に気づくと、声を出さずに口を動かす。
あたしは口の動きを読みとった。
"そのまま黙ってじっとしてろ"
とりあえず指示に従って口をつぐんでいると、サヴァ国の兵士たちは少し動揺し始めた。