名のない足跡
立ち上がり、あたしたちの目の前を右往左往していたアルファ女王は、突然足を止め、手をポンと叩く。
「よし、メイロン。ちょっと来てくれ」
涙目の隊長さんは、渋々とアルファ女王の側まで歩く。
アルファ女王が耳打ちすると、隊長さんは急に真面目な顔つきになった。
「…はっ!了解致しました」
「よろしく頼むよ、隊長」
去っていく隊長さんが部屋を出るのを見届けると、アルファ女王はこちらへ向き直る。
自然と、あたしは背筋を正してしまった。
なんて言うか…すごく、威厳がある。
この時あたしは、心の奥に何か黒くモヤモヤしたものが巣くった気がした。
一瞬の不快感は、次のアルファ女王の言葉で吹き飛んだ。
「ネスタ国国王、ジークを呼びに送らせたぞ」
「…えええぇ!?」
「…何だ、私やジークに用があるのだろう?」
「そそそ、そうですけれども」
小首を傾げるアルファ女王に、あたしは首を縦に振りながら答えた。
「なら、一度に済ませた方が気が楽じゃないか。遠慮しなくても、私とジークは幼なじみなのだ。気にしなくていいぞ?」
またまた豪快に笑ながら、アルファ女王は言った。