名のない足跡
顔が引きつるあたしを横目に、ウィンが、
「やったじゃんか。一石二鳥」
とか言ってきたけど、あたしは喜ぶどころじゃなかった。
気が楽になるどころか、二人の王を一度に相手にするとなると、逆に気が滅入る。
残念なことに、そんなあたしの気持ちはアルファ女王には伝わらなかったらしい。
「…そろそろ来るな」
アルファ女王の呟きに、あたしが反応すると、ライトが答えてくれた。
「おそらく、転移魔法が使えるのでしょうね。ジーク王は」
「…すごい人ばっかりだなぁ、王様は」
ため息と共に吐き出したあたしの言葉に、ライトが口を開こうとした時、急に今あたしたちがいる部屋全体が眩い光に包まれた。
光は徐々に薄れ、部屋が通常の明るさを取り戻した時、部屋の中央には人が立っていた。
「ジーク!!」
アルファ女王が、すぐにその人の名前を呼んでくれたので、誰、と口に出す手間は省けた。
ジーク王は、優しい面影があった。
でも、決して人をすぐには受け入れないような、かすかな冷たさも感じられた。
腰まである長い銀髪は、頭の後ろで一本に束ねられている。
ルビー色のその瞳は、ゆっくりとアルファ女王へ向けられた。