名のない足跡
「…アルファ。急に呼び出すな、と何度言ったらわかるんだ?」
「まぁまぁ。そう言いつつも、毎回来てくれるのは、私への愛かな?」
「バカ。幼なじみのよしみってやつだ。ところで…」
急に瞳を向けられて、一瞬怯んだあたしを、ジーク王は物珍しげに見た。
「…貴女が、フォーサス国のルチル女王?」
「はっ…はい!ルチルと申します」
サッと頭を下げたけど、ウィンに「そう簡単に下げんなって、アホ」と怒られた。
アルファ女王は、短くよし、と言って続けた。
「謁見の間へ部屋を移そう。ついて来てくれ」
謁見の間の扉の目の前で、アルファ女王は立ち止まった。
「…どうしました?」
あたしが声をかけると、アルファ女王は真剣な顔つきで言った。
「この先の部屋では、私たち国王三人で話したい」
「それは出来かねます」
「…ライト」
ライトは、一歩前に出て、あたしを庇うように立った。
「失礼ながら、他国の土地でいつ何が起きるかわかりません。護衛隊長の立場として、ルチル様のお側を離れるわけにはいきません」