名のない足跡
「…緊急収集?滅多にかかるモノではないですね」
ユナが不審そうな表情をする一方、デュモルは「ほう」といかにも面白そうな顔をした。
「ま、行ってみりゃわかんだろ」
そこで、兵士たちの訓練は一旦打ち止めになり(飛び交うブーイングの嵐)、デュモルとユナは広場をあとにし、城内へ入った。
†††
緊急集会は、小広間で行われると聞いて、あたしは驚いた。
だって、いつもの集会なら、文官・武官・王家の者たちが集い、大広間で会議が行われるから。
各部のトップだけで話し合わず、城内の者全員で話し合うのが、この国の特徴。
なのに小広間だったら、もちろん全員が入れるわけがない。
不審に思いつつ、あたしは小広間の扉を開けた。
小広間には、小さなテーブルと十脚のイスしか用意されていなかった。
いつもの集会とは違う光景に、あたしは不安を覚えた。
それに…
「アラゴ国王様がいらっしゃいませんね」
あたしのすぐ後ろに控えていたライトが、あたしの耳元で囁いた。
そう。議論の中心人物となる父様の姿が、まだどこにも見当たらない。
きょろきょろと父様を探すあたしのもとへ、父様の補佐役、アゲートさんが近づいて来た。