名のない足跡
3.でこぼこ散歩道
†††
姫様たちが謁見の間に入り、扉が閉められると、俺はその扉へもたれかかるようにして座り込んだ。
こういう時に側にいないと、不安になる。
あの日、俺が姫様の護衛に就くとなった時、アラゴ様はこう仰った。
―――『ルチルを頼むよ、ライト』
その言葉に従うことが、俺の生きる目的となり、義務となった。
当たり前のように、いつも側にいたんだ。
姫様は今、崖の淵に一人で立っている。
少し大地が揺らげば、すぐに落ちてしまうだろう。
誰かが、手を差し伸ばさなければいけない。
それは俺の役目だと、ずっと信じてきた。
「…あんたさぁ」
不意にウィンに声をかけられ、俺は現実に連れ戻された。
見ると、ウィンは近くの窓辺に手をかけ、外を眺めている。
「何ですか?ウィン」
「…甘やかしすぎじゃねぇの」
外を眺めたまま放たれたウィンの言葉は、すうっと俺の体を射抜いた。
「…それは、姫様のことですか?」
急に、口の中が渇き始めた。
ウィンの言葉を肯定しているようで、嫌になる。