名のない足跡
「他に何もねぇじゃん。でも、分かってたんなら、あんたは自分のことも甘やかしてたかもな」
「…ウィンは冷たすぎじゃないですか」
「あれくらいがちょうどいいんだよ」
やっと、ウィンはこっちを向いて話し出した。
「王が臣下に頼り続けたら、国は終わりだ。そうやって滅んだ国は過去にいくつもある。…臣下が王に何でも答えを与えるのも、同じ結果になるぜ」
「………」
「あんたがいつでも答えを用意したら、あいつは考えることをしなくなる」
ウィンの言っていることは、正しかった。
正しいからこそ、何も言えず、俺は黙ってウィンを見上げていた。
「…あんたも、もう分かってるだろうけどさ」
ウィンはゆっくりとため息を吐き、続けた。
「あいつは、もう前の世間知らずの姫なんかじゃない。王に向かって歩き出してる」
…そう、分かっていた。
さっき、俺に頼ろうとしなかった姫様を見て、はっきりと。
「あんたが何も言わなくても、あいつはきっと答えに辿り着けるぜ」
「…遠回しに、姫様の近くから消えろって言ってます?」
言われっぱなしも嫌だなと思い、少しからかってみた。