名のない足跡
「感謝されるようなこと言った覚え、全くねぇんだけど」
「いいえ、言いましたよ。少なくとも安心しました」
次に口に出そうと思った言葉は、その場に踏みとどめた。
今ここで、言うべきじゃない。
不思議そうに俺を眺めるウィンに、俺は笑って「気にしないで下さい」と言った。
口に出してしまったら、すぐに現実になってしまう気がした。
だから俺は、そっと自分の胸に手をあて、目を伏せ、心の中で呟いた。
…俺がいなくなっても、姫様は一人じゃない。
†††
「で、要件は?」
謁見の間で、席に着くや否や、アルファ女王は本題に突入した。
「えっ、えっとっ」
「コレ」
おどおどしているあたしを見て、ジーク王がアルファ女王の頭をばしっと叩く。
「痛あッ!! 何するんだッ!!」
「始めてあったんだぞ!?もっと他に言うことあるだろうっ」
うわぁ…すごく痛そう。
目の前で二人が言い争っているのに、あたしはそんなことを考えていた。
見るからに、本当に仲が良いんだな、と思う。
「…あのっ、構いません!」
突然声をあげたあたしに驚いて、二人はこっちを見る。