名のない足跡
「要件を早く済ませるのに、こしたことはありません」
今度は、声のトーンを戻して言ったあたしに、ジーク王は少し顔をしかめた。
「…しかし、そう安っぽい要件ではないだろう?まずは、自己紹介などして…」
「お二人は、あたしのことを多少はご存知だと思います」
あたしがきっぱりと言い切ると、アルファ女王は「まぁ、そうだな」と答えた。
「あたしは、お二人のことよく知りません。でも、これから話している間に、少しは性格とか知ることができるんです。なら、自己紹介の時間がもったいないでしょう?」
よし来た!という顔で、アルファ女王はジーク王を見る。
「ほら!私もそう言いたかったんだっ!」
「あーはいはい。…ルチル女王の言うとおりだな。早速、要件を伺おう」
あたしは、深く呼吸をして、話し出した。
頭の隅で少しずつ考えながら、言葉を紡ぎだしていく。
「今回は、フォーサス国国王、アラゴが亡くなり、私ルチルが王位に就任しましたことの、ご挨拶を申し上げに参りました。私は、この件に関して、サヴァ・ネスタ両国に手紙を送りましたが、残念ながら、返事を頂くことが出来ませんでした」