名のない足跡
アルファ女王が、頬杖をついて答えると、隣のジーク王も頷いて答えた。
「とりあえず俺たちは、"様子見"ってことで返事はせず、そちらの出方を伺うことにしたんだ」
「そしたら今日、何の前触れもなく、突然結界破って現れるし…。正直、呆れたな」
「すっ、すみません」
今更になって、あたしは自分がしたことを反省した。
よく考えれば、相当失礼だった。
でもアルファ女王は、いや、と首を振った。
「呆れたが、感心もしたよ。王が自ら会いに来てくれたからな」
「ああ。もし来たのが従者だったら、俺たちは会おうともしなかっただろう」
二人の言葉を聞いて、少しだけあたしは安心した。
そうそう、とアルファ女王が両手をポン、と叩く。
「私はアレが気に入ったよ。"カンパニュラ・イソフィラ"」
「俺もだ。なかなか良い方法だと思った」
あたしは嬉しくて、えへへ、と笑った。
よかった。ちゃんと伝わってたんだ。
…あたしが、メノウ交易官に託した言葉。
"カンパニュラ・イソフィラを捧げます"
カンパニュラ・イソフィラは、いわゆる釣鐘草のこと。