名のない足跡
遠い昔、王位に就くものは、花言葉を学ぶ、という決まりがあった。
他国に送る花で、失礼な花言葉の花を選ばないように、と。
でも、今はその掟に従っている国は少ない。
あたしはたまたま習ったけど、他国の王が習ってるかなんてわからなかった。
だから、ちょっとした賭だったんだけど…
カンパニュラ・イソフィラの花言葉。
―――"親交・友情"
手っ取り早く、"親交を望んでいます"って伝えたかったんだ。
その言葉を、ただ紙に書くだけじゃなく、花言葉に乗せて。
「…ルチル殿」
アルファ女王は、真面目な顔つきであたしの名前を呼んだ。
「…はい」
あたしは、しっかりとアルファ女王の瞳を見る。
「あなたには、前国王ほどの威厳は感じられないものの、確かに王としての器はある」
褒められているのに、なんだか落ち着かないまま、あたしは次の言葉を待った。
「…カンパニュラ・イソフィラを受け取ろう」
その途端、あたしはものすごい勢いで席を立った。
「ほ…本当ですか!?それって…」
「ああ。今まで通り、親交を行っていこう」
アルファ女王の笑顔を見て、力が抜けてしまったあたしは、へなへなと床にしゃがみこんでしまった。