名のない足跡
「ささっ、ルチル姫様、ライトくん、お席へ」
そう言って、さっさと自分の席へ戻ってしまったアゲートさんの後を追うように、あたしとライトは空いている席へ着いた。
辺りを見渡すと、みんな何事かとそわそわしている。
やがて、アゲートさんは静かに口を開いた。
「書籍部長官セドニー殿、副官ロード殿、伝令部司令官カーネ殿、商連部交易官メノウ殿、戦闘部隊長デュモル殿、副隊長ユナ殿、護衛部隊長ライトくん…そしてルチル姫様」
アゲートさんはそこで言葉を切り、この場に集った人たちを見回した。
「今回このような急な集会に応じていただき、ありがたく思います」
「待って、アゲートさん。父様は?」
あたしは、父様が座るはずの空の玉座を見て訪ねた。
父様がまだ、来ていないのに。
あたしの言葉に、アゲートさんはピクッと肩を震わせた。
その反応に、室内の空気が一気に変わる。
「…実は、今回の緊急集会の内容は…アラゴ国王様についてなのです」
その場にいた全員が、顔を曇らせた。
何だって?とでも言うように。
あたしも例外ではなく、アゲートさんの言葉と表情から、最悪な出来事が頭を巡った。