名のない足跡

†††


気がついたとき、目の前にそびえ立つ城は、紛れもなくカルム城だった。



無事、帰国出来たと知ったあたしは、嬉しさが込み上げてきた。


すると、すぐ隣からうめき声が聞こえた。


「…うえ―…気持ち悪…」


見ると、顔面蒼白なウィンが立っていた。


「ウィン、魔法酔い?」


「…あのな、乗り物酔いとか、そんな類のもんじゃねぇの。移動魔法は体力の消費激しいんだよ」


だから、行きは使いたくなかったんだよ、とウィンは付け加えた。


ライトは、心配そうにウィンを覗き込んだ。


「とりあえず、アゲートさんに報告に行きましょう、姫様。ウィンは休んで下さい」


汗だくで、いかにも疲れてそうなウィンは、軽く頷いた。


「悪ィ。…休むわ、俺」


そう言って、ふらふらと城内へ入って行った。


その後ろ姿を見て、あたしはライトにポツリと漏らした。


「…あたし、やっぱりウィンを補佐に選んで良かったと思う」


「…そうですね。では、行きましょう」


ライトは微笑んで、城に向かって歩きだした。


あたしもライトを追って、アゲートさんのもとへ向かおうとした。



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