名のない足跡
「…さすが、姫様」
「こんなの、まだまだ序の口よっ!もっとすごいこと考えてるんだから」
あたしは笑って答えた。
「…ルチル様の様子から察すると、上手くいったようですね」
アゲートさんにそう言われたあたしは、返事の代わりに微笑んだ。
†††
フォーサスとサヴァ・ネスタ各国の対談が丸く収まったことを、すぐに知った男がいた。
彼は、自室で椅子に腰掛け、腕を組み、その情報を聞いていた。
「…とのことであります、陛下」
彼の目の前で報告をしていた臣下は、サッと一礼した。
「…ごくろう。さて、そろそろ動き出すとしようか」
深みのある声で、ゆっくりと立ち上がった彼は、窓辺に寄る。
外は闇に包まれていて、仄かな月明かりが、彼の血のように真っ赤な長髪を照らした。
彼は両手を広げ、誰にともなく呟いた。
「…運命を、我が手に」
雷鳴が、彼の言葉に答えるように、遠くで鳴り響いた。