名のない足跡
「はぁ―――…」
あたしはもう一度長いため息をつくと、執務室の机に顔を伏せた。
その時、誰かが部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「おい、いるんだろ?俺」
「…ウィンー?いいよー入って」
扉が音をたてて開くと、ウィンがカップを片手に入って来た。
「何だ?サボリか?」
あたしはすぐに起きあがって、顔を輝かせる。
「ウィンッ!! 飲み物持ってきてくれたのっ!?」
「ばーか。これは俺のだ」
「え」
がっくりとうなだれるあたしを見ると、ウィンは噴き出した。
「ぶっ。ウソだよ。やるよ」
くすくすと笑いながら差し出されたカップを、あたしは受け取る。
「あ、ありがと」
前よりも、少ーしだけウィンが優しくなった気がする。
何でだろう?
飲み物は、ミルクティーだった。
一口飲んでから、あたしは「あっ」と言ってカップを置く。
「もしかして、ウィン、ライトに教わったの?」
「…は?」
曇ったウィンの表情に気づかずに、あたしは続ける。
「前にライトと話してたの!ウィンは口の悪さを直せば…」
その瞬間、カップが床に落ちて、割れた。