名のない足跡
1.道端の石ころ
蒸し暑かった日々が嘘のように消え去った。
ひんやりとした風が、肌寒さを感じさせる。
日は短くなり、空が赤く染まる時刻は早い。
フォーサス国の城下町を、一人の少年が歩いていた。
焦げ茶の少し長めの髪で、前髪を頭のてっぺんにピンで止めている。
髪と同じ色の瞳で、城下町を観察している。
誰が見ても、容姿は悪くない、と言うだろう。
しかし、その少年は、見るからにやる気がなさそうな雰囲気を醸し出しており、だらだらと歩く様子を見れば、明らかだった。
先ほどから、あくびを繰り返している。
そのせいで好感度が下がることを、彼はまだ自覚していない。
「ふぁ…ねむ」
何度目かわからないあくびをして、ふと足を止めた。
目の前に建っている城を見上げて、ポツリと呟く。
「…フォーサス国、ルチル女王、ね」
軽く頭をかいてから、少年はまた歩き出した。
夕日に照らされ、赤く染まった城を目指して。