名のない足跡
少し言い過ぎたような気がして謝ると、アズロは肩をすくませた。
「オレ、ここの国民じゃないんだよね。でも、故郷じゃ雇ってもらえるトコなくてさ。金ないし、どーしよっかなーと思ってたら、君のウワサが耳に届いた」
「え?…あたしの?」
「そう。フォーサス国の新しい女王は、寛大なお方よーってさ。寛大なら、オレを雇ってくれるかなーって」
あたしは、何だか複雑な気持ちになった。
その噂を信じて、ここまでやってくるアズロも何ていうか…。
「…すっごい、天然」
「は?天然?」
あたしは、アズロをまじまじと見てから、うん、と一人頷いた。
「いいわ、雇ってあげる」
せっかく雇ってあげるって言ってるのに、対するアズロはまた口をポカンと開けている。
「…姫様、彼、驚いちゃってますよ」
クスクスと笑ながらライトが言うと、アズロは我に返ったらしく、
「えっ?…いーの?マジで?」
と遠慮がちに聞いてきた。
今更遠慮されても、と思いつつも、あたしは笑った。
「その代わり、しっかり働いてね?」
「…う。が、頑張りマス」
この時、あたしは何故だか彼を放っておけなかった。