名のない足跡
すかさず、右手の剣をアズロの肩を目掛けて振り下ろす。
アズロは上手く体を反らせ、剣先を避けると、俺の左腕をつかむ。
そのまま背負い投げの体勢を取ろうとするが、そうはさせない。
俺は体をひねり、アズロを横に投げ飛ばすように振り払う。
「う、わ」
崩れた体勢を立て直そうとするアズロの肩を剣で突き、そのまま体重をかけ、アズロと共に地面に倒れ込んだ。
剣を肩から抜き、アズロの鼻先でピタリと止める。
「…勝負ありましたね?」
「…マジ、勘弁なんだけど」
俺がアズロの上から退くと、アズロはゆっくりと起き上がった。
左肩をしげしげと眺めながら呟く。
「ビビったー…。穴開いたかと思った」
「はは、大丈夫ですよ。…それにしても、なかなか良い体さばきですね」
「そう?いーよ、お世辞なんて」
もうやる気はないのか、アズロはせっせと元の服に着替え始めた。
…その時俺は、妙な胸騒ぎを感じていた。
さっきのは、見間違いなんかじゃない。
俺が、振り払おうとした時。
地面に倒そうとした時。
アズロは、確かにステップを踏んだ。