名のない足跡
倒れる時のダメージを減らす為に、倒れる寸前に地面を軽く蹴り、自分が倒れたい方向に軽く跳躍するのは珍しいことじゃない。
今までにいろいろな国の兵たちと剣を交えたが、ステップをする兵は数多くいた。
けれど、俺が見たそれは、ある国の独特のステップだった。
一度だったら、見間違いかと深く考えなかったかもしれない。
しかし、アズロは、その独特のステップを、二回踏んだ。
…心臓が、激しく脈を打つ。
そんな俺を気にもせず、アズロは俺に聞いてきた。
「…オレ、護衛部に入ってもいい?」
次々と湧いて出る疑問をその場に留め、俺は平静を装った声で答えた。
「ええ。…もちろん、歓迎しますよ」
時は、確実に迫って来ていた。
†††
草木も眠る丑三つ時。
世間一般にそう呼ばれる、午前二時。
彼らは、薄暗い倉庫に集まっていた。
前もって、彼らはこの倉庫には"出る"という噂を流しておいた為、実際、こんな時間にこの倉庫の周りをうろつく輩は現れない。
本日、彼らの週に一度の会合が行われる。