名のない足跡
ラッドの横で、シマリスがキューと鳴く。
「そうか、お前も安心したか、ロナ」
ラッドは、ロナを抱いて背中を優しく撫でる。
そして、険しい顔つきで言った。
「…てことは、だ。モルファの話に繋がるな。そのことを知って、そろそろ行動を起こさなければ、と考えた可能性は高い」
モルファとルーカは無言で頷く。
ラッドは、本当に真剣な内容になると、頭の回転が速くなる。
普段はどんなにおどけていても、彼の能力は、計り知れない。
だから、二人はどんな時でも、ラッドの側で仕えてきた。
「…俺たちも、そろそろ動かなければ。正体を隠してまでして、乗り込んだ意味がない」
三人は、今後の行動について、細かく話し合った。
最後に確認すると、三人は目立たないよう、そっと倉庫を去った。
ラッドは空を仰ぎ、夜空に咲く満月を眺めた。
「ごめんな…ルチル。こんな兄貴で」
最愛の妹に、小さな小さな謝罪をして、ラッドは目を閉じた。
―――大丈夫。お前はひとりじゃない。