名のない足跡
2.水たまりに映る影
アズロが城の護衛部で働くようになってから一週間。
ああ良かったね仕事見つかってーぐらいにしか考えてなかったけど、この日、アズロはとんでもないことを報告した。
「オレ、君の護衛することになったから」
いきなり執務室に入ってきて、言った言葉がコレ。
そりゃあもう驚いて、あたしは飲みかけの紅茶を吹き出した。
「うわ、汚ッ」
「ちょっ、え、アズロが!?何で!?」
あたしはハンカチで口元を拭きつつ、動揺を隠せずに言った。
だってだって、だって。
「ラ…ライトは…」
「あぁ、隊長?いるでしょ。オレは、隊長の代理になったの」
「それってつまり…副、隊長?」
「そゆこと。隊長が手離せないとき、オレが代わりになるからさ。よろしくー」
一週間で、副隊長に!?
アズロって、実はすごい才能の持ち主…?
…でも、ちょっと待って。
今まで、ライトは副隊長っていう立場に人を置かなかった。
それなのに、なんで今頃になって…?
「面倒になったんじゃね?」
あたしの心の声に答えるように、ウィンが執務室に入ってきた。
両手いっぱいに書類を抱えている。
う。追加ね。