名のない足跡
「面倒って…どーゆうことよッ」
「そのまんまじゃん。あんたが迷惑かけすぎて、あー俺一人じゃ手が何本あっても足りないーってことで新人くんに任せてしまおう。ってね」
ニヤニヤしながら、山積みの書類をあたしの机の上にドサリと置く。
あたしが何か言うよりも先に、アズロが呻く。
「えー。君、そんなに手のかかるお姫サマなの」
「かかるかかる。図太い神経の持ち主相手にすんの、大変だぜ」
「ちょっ…、何ですって!? ウィンッ!!」
あたしが勢いよく立ち上がったその時。
ガッシャアァァン!
壮大な音と共に、窓ガラスが砕け散った。
その音に驚いて、目を瞑っていたあたしは、頭上から聞こえてきた声で、目を開いた。
「………平気?」
「…平気って…アズロ…」
振り返ると、苦痛に顔を歪ませながらも、笑っているアズロがいた。
「やだっ、血が…アズロのが平気じゃないじゃないッ!」
どうやら、アズロがあたしを庇ってくれたらしい。
アズロの背中を見ると、飛び散ったガラスの破片が、ところどころに刺さっていた。