名のない足跡
「うっ…痛ー。平気じゃないカモ」
「人、呼んでくる」
幸いにも無傷だったウィンが、執務室を出ようと背を向けた。
でも、その必要はなくて、数人のバタバタとした足音がやってきた。
「姫様!!」
息を切らせながら、真っ先に飛び込んで来たのは、ライトだった。
「ラ、ライトォ…、アズロがっ…」
涙目であたしがそう言うと、ライトの後ろからアゲートさんが顔を出す。
「私に、任せて下さい」
アゲートさんは、素早くアズロの横へ来て、呪文を唱え始めた。
すると、アズロの背中に刺さっていたガラスは、跡形もなく消え去った。
「とりあえず、後は専門の医師に任せます。立てるかな?アズロくん」
「あ、はい、多分」
よろよろと立ち上がろうとするアズロの体を、あたしは支えた。
「…あたしも、ついてく」
アズロは、いきなりあたしの髪をくしゃっとかき混ぜて、笑いながら言った。
「医者がいるなら、平気だって。それより良かったよ。君にケガなくて」
「アズロ…」
アズロは手をヒラヒラと振り、アゲートさんに支えられながら、執務室を出て行った。